【愛玩動物飼養管理士監修】オランダで始まった「デザイナーブリード規制」飼い主に求められる意識とは?

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松尾 猛之(ねこライフ手帳製作委員会委員長/愛玩動物飼養管理士1級)

ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。

 

ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。

 

先日、オランダで発表された動物愛護に関する法案が話題になっています。

一部の犬や猫について、新たな飼育などを禁止する方針を明らかにしたというもの。対象となるのは人為的に作られた「デザイナーブリード」と呼ばれる種です。

 

法案の対象にはパグやフレンチ・ブルドッグ、スコティッシュ・フォールドといった、世界的に人気の犬猫が含まれる可能性も報じられています。海の向こうの国のニュースですが、もしかしたら日本でも将来、人間と暮らす犬や猫の枠組みが変わるかもしれません。

 

今回は欧州から始まろうとしている、デザイナーブリードをめぐる動きについて書いていきます。

「デザイナーブリード」の飼育を段階的に取り締まる法律

2023年1月20日、オランダのピート・アデマ農相が発表したのは「デザイナーブリード」に含まれるペットの新規飼育、そして広告やソーシャルメディアでの写真掲載を禁止する方針です。

 

「デザイナーブリード」とは、祖先となる種を人間が飼いやすいように改良した品種。

海外メディアは「見た目はかわいいが、健康に悲惨な問題を抱える」と表現し、「有名人やインフルエンサーにも多くの飼育舎がいて人気を集めているが、疾患が多いリスクもある」と指摘しました。

 

リストの完成にはまだ時間が掛かりそうです。よってデザイナーブリードの中でどの種が対象となるのかはまだ分かっていませんが、「パグが含まれる可能性がある」と地元の公共テレビ局が報じたという話もあります。

 

法律が施行された場合、対象となった犬や猫の新たな飼育は禁止となる見込み。しかし既に家庭で飼われている犬猫たちについては、もちろん終生まで一緒に暮らすことができます。

「牛いじめ」に使われた過去も・・・短頭種の愛玩犬が作られるまでの歴史

デザイナーブリードは人間が飼いやすいように改良した品種と先ほど書きましたが、家庭の中で我々人間と一緒に暮らせるようになるまでには、いろんな過去の歴史がありました。

 

例えばブルドッグ。この犬種名に「ブル(雄牛)」が含まれている理由をご存知でしょうか。

ブルドッグという犬種名には、かつての英国で盛んに行われていた「ブルベイティング」が関係しています。

 

ブルベイティングとは「牛いじめ」。当時の英国では雄牛と犬を闘わせる見世物が人気だったのですが、大きな雄牛に対抗できる犬として抜擢された種の1つが原種となるオールド・イングリッシュ・ブルドッグでした。

 

非常に大きな体格で、どう猛な性格、どっしりした重心、噛みついても呼吸が維持できる低い鼻といった特徴が雄牛との闘いに適していたという考察もあります。犬が牛を痛めつける様を見て楽しむ・・・今ではとても考えられませんが、昔の英国ではこれが大衆の娯楽だったのです。

 

その後マーチン法(1822年制定)と呼ばれる動物虐待防止の法律によって牛いじめは禁止されました。オールド・イングリッシュ・ブルドッグも一時姿を消しますが、時を経て番犬や愛玩犬として品種改良されたのが現在のイングリッシュ・ブルドッグとなります。

 

同じくデザイナーブリードとなるパグも、闘犬として使われていたマスティフを小型化し、穏やかな性格へと改良した中国の犬種。上記のイングリッシュ・ブルドッグが誕生する過程にはパグの血も含まれるとされています。またフレンチ・ブルドッグについても、オールド・イングリッシュ・ブルドッグを小型化した犬種にパグやテリアを交配させて生まれた派生種です。

見た目のせいで苦しむ犬猫たち・・・人気の裏で指摘され続けていた「病気のリスク」

「“かわいい”と思う気持ちが、罪のない動物を悲惨な目に遭わせている」とコメントしたオランダのピート・アデマ農相。この「悲惨な目」を指すのが、デザイナーブリード特有とされる「疾患にかかりやすいリスク」です。

 

マズル(鼻先)の低い短頭種は呼吸が荒いため、鼻や呼吸器の疾患には若い年齢から注意が必要とされています。体温調節も難しいことから暑い時期の熱中症リスクも高くなります。

 

また犬種によっては眼球の突出による目の病気や、顔の深いしわに汚れが溜まることによる皮膚への影響などもあり、日頃の健康管理やこまめな身体のケアが欠かせません。

 

猫の中で人気が高いスコティッシュ・フォールドもデザイナーブリードに含まれます。折れ耳が特徴的な種ですが、これは単なる個性ではなく「骨軟骨異形成症」という遺伝性の軟骨異常。個体によっては関節の痛みや骨瘤、歩様の乱れといった症状を引き起こす原因にもなります。また「スコ座り」といわれる座り方も、先天性の疾患による痛みを軽減するための姿勢であることは意外に知られていないかもしれません。

 

すでにベルギーでは繁殖や販売が禁止されているスコティッシュ・フォールド。日本で流通や販売に関する規制はありません。しかし現状は迎え入れるすべての飼い主に特有疾患の情報や健康観察の必要性が、あらかじめ十分に伝わっているとはいえないのも事実。これを危惧する意味で一部の有識者からは「飼うリスクへの意識が希薄なのでは?」「ただちに繁殖を止めるべき」などといった声も聞かれます。

進んでいく共生社会の変革。飼い主も「知る、考える」ことが必要です。

オランダは150年以上の歴史を持つ動物愛護の先進国。

保護犬、保護猫のシェルターを多数有しており、殺処分は国内全土で実施されていません。

 

共に暮らす動物たちの権利を守るため、厳しい政策を次々と打ち出すことでも知られるオランダがデザイナーブリードの現状にメスを入れようと動いた。この影響は決して小さくないと考えられています。

 

家庭で飼える犬や猫の種を制限する動きは、近い将来オランダに追随する形で欧州から広がっていくことが想像できます。何年先になるかは分かりませんが、後進国である日本もいずれ足並みを揃える時が来ることになりそうです。

 

日本でも愛好家が多く根強い人気があるデザイナーブリード。見た目に“かわいい”のも“映える”のも事実です。しかし今回の動きは「愛犬、愛猫が種特有の疾患を抱えることに無関心でいて良いものか」という海外からの警鐘だと捉えることが大切かもしれません。

 

平均寿命についてはデザイナーブリードだからといって短くなるわけでもないようです。つまり日頃の観察や体調管理を怠らなければ、不調を早く発見できて健康を維持しやすくなるのはどの犬種、猫種も同じだと考えて問題ないのではと私は思います。

 

しっかりと知識を持ち、考える力をつけることも動物と暮らす飼い主の継続的な責任。終生まで悔いなくお世話するために、高い意識といろんな事態を想定した備えを忘れないようにしたいものです。

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