ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。
ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。
日本の動物愛護管理法では現在、犬を飼育する上での飼い主の義務(または努力義務)として、主に以下のような項目が制定されています。
・居住する自治体への登録
・年に1回の狂犬病予防接種
・公共の場での放し飼い禁止
・マイクロチップの装着 (一部のみ抜粋しています)
もともとは狂犬病のまん延防止に重点が置かれていましたが、動物の権利についての考察や犯罪抑止など、幅広い観点から段階的な法改正が行われるようになりました。
動物愛護に対する意識の高まりに合わせて、終生飼養の原則に基づいた義務項目も今後さらに増えていくものと思われます。
一方、海外でも犬の飼育に関する独自の法律が、各国で定められています。
調べてみると興味深い内容もあり、中には日本以上に厳しい義務を求めるケースもあるようです。
犬と暮らすということを、それぞれの国がどのように捉えているのか。
法律はその違いを見きわめる、分かりやすい基準にもなるでしょう。
今回は家庭犬に関する法律について、世界各国にある独特な決まりをご紹介します。
テストに合格しないと犬が飼えない!高い意識が求められる「スイス」
動物愛護関連の法律が、世界で最も厳しいとされている国がスイスです。
動物の尊厳を憲法レベルで定めている国であり、動物福祉に対する意識の強さが厳しい規制の数々にも表れています。
中でもスイスの厳しい動物愛護精神を象徴するのが「犬飼育の資格制度」。
車の運転に免許が必要なのと同じように、犬を飼うために一定の知識やスキルが求められる決まりになっているのです。
新しく犬を迎えた家庭に対しては「合計4時間のしつけ訓練」と「実技テスト」を受けることが、飼い主と犬の両方に義務づけられています。
経費は有料となり、合格して証明書が発行されないと犬を飼い続けることができません。
また飼育経験者が新しく犬を迎え入れる際にも、同様の実技試験が必要となります。
資格が必要って、厳しい制度だなと違和感を覚えた方もおられるでしょう。
しかしすべての飼い主に素養を持つことを求め、犬と暮らす家族としての自覚を促す資格制度には大きな意義があるように感じます。
市民が通報!細かな規制に加えて監視の目も厳しい「ドイツ」
スイスと同じく、動物福祉の先進国とされているのがドイツです。
ドイツでもピットブルや土佐犬など、闘犬種を中心とした「危険犬種」に指定されている犬の飼育については、理論テストと実技テストをクリアして飼育免許を取得しなければなりません。
また2001年に制定された法令においては、
「犬だけを1日中留守にさせてはいけない」「屋内では日当たりのある部屋で飼わなければならない」など、犬の飼育環境や屋外での運動に関するルールが細かく明記されています。
一般市民による監視の目が厳しいことから、不適切な飼育を通報する件数も多く、違反が続いた場合には強制的に犬を没収されてしまうケースもあるそうです。
ドイツは動物の殺処分がない国として知られ、ティアハイムと呼ばれる広大な動物保護施設も多数つくられています。
不幸な犬を減らすための受け皿を整えるだけでなく、捨てられる個体を減らす施策も大変重要なこと。飼い主やブリーダーなどに対する厳しい規制は、動物の権利をしっかり認めた上での共生社会形成に役立っているといえるでしょう。
動物愛護が改正憲法に!画期的なニュースが流れた「イタリア」
イタリアでも動物の遺棄が深刻な社会問題となっており、毎年数十万頭もの犬や猫が路上やシェルターに放置されているという話もあります。
もちろん動物愛護に関する法律がないわけではなく、2004年に制定されたイタリアの動物保護法では、飼い犬(飼い猫)の虐待、遺棄に対して明確な処罰の記載があります。
殺害した場合には18ヵ月以下の懲役、虐待については1年以下の懲役または15000ユーロ以下の罰金、遺棄に対しては1年以下の拘禁刑または10000ユーロ以下の罰金が科せられます。
さらに虐待行為によって命が奪われた場合には、上記の量刑が1.5倍になるという規定も加えられています。
また2006年冬季五輪開催地である工業都市のトリノでは、犬の散歩を1日3回以上行わなければいけないという条例があります。散歩は徒歩でと決められており、違反した場合には500ユーロの罰金となるそうです。
かつては動物への虐待が各地で横行していた時代もあるイタリアですが、日本と同様に動物愛護に関する法整備は着々と進んでいる印象があります。
そして2022年2月の憲法改正では「動物や環境の保護」が新たに明記されたことも話題となりました。
国家の基本法である憲法に、動物愛護の内容が盛り込まれた意義は非常に大きいとされており、動物保護法の積極的な改正をはじめとした具体的な取り組みが、この先さらに進んでいくことも期待されています。
犬が嫌われる・・・イスラム圏特有の事情「サウジアラビア」
イスラム圏の国々における犬の飼育率は総じて低いとされています。
イスラム教では、犬が不浄の動物とされているからです。
サウジアラビアもイスラム圏の国となりますが、原則として公共の場での犬の散歩が固く禁止されています。警察に見つかったら注意どころでは済まない、という話も聞かれています。
なぜ、犬の散歩をしてはいけないのか・・・
「ペットを使って女性を誘惑し、家族の心を乱すことが一部の男性の間で流行しているための措置」という当局のコメントを見つけました。
理由については、宗教上ご法度となっている「自由恋愛」を取り締まる側面があるようです。
分かりやすくいえば「犬の散歩を口実に、外で女性をナンパするんじゃないよ」ということになるでしょう。
サウジアラビアではもう1つ、首都リヤドでの生体販売(犬猫ともに)が禁じられています。
これには前述の犬の散歩禁止と関係する部分があり、女性を口説いている現場を警察が押さえた時、男に「(販売のための)セールストークだ」という弁明をさせないためではないかと推測されているようです。
宗教観による影響もあり、サウジアラビアには犬を嫌う人が多いといいます。
外で暮らす犬たちの多くが虐待、そして駆除される形で最期を遂げていく残念な実情もあるようです。
まだまだ世界標準の動物福祉にはほど遠いかもしれませんが、海外移住者を中心に、少しでも状況を変えようと尽力されている方々もおられます。
犬も尊い命を持った生き物である理解が広がり、犬との関わりが少しずつでも良い方向へ動いてくれることを願っています。
いろんな法律から分かる各国の動物愛護観
動物福祉に対する意識の高まりに比例して、日本国内の法整備も確実に進んでいます。
同じように世界各国でも、犬との暮らしに関する課題解決を目指した法律の制定や見直しがリアルタイムで進められているのです。
動物愛護に関する観点は国によってそれぞれですが、日本にはない法律の数々を目にする中で、各国の「犬を飼うこと」に対する、さまざまな意識や価値観の違いに触れることもできるのではないでしょうか。
今回ご紹介したいろんな法律が、世界における動物愛護、動物福祉のいろんな考え方を知るきっかけにもなれば幸いです。