ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。
ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。
先日、保護猫をはじめて迎えるという知人から、こんなことを言われました。
「毎日のお世話とか健康管理とか、フードや猫砂の選び方とか病気のこととか、いろいろネットで調べているうちに、私にもちゃんと育てられるのか不安になってきた・・・」
たしかに猫と暮らすための知識は、ある程度必要かもしれません。
でも猫だって生き物。事前の学習が当てはまらない状況や、一緒に暮らしてみないと分からない部分がたくさんあるのも事実です。
だったら「あれしなきゃ、これしなきゃ」と頭をパンパンにするより、まずはご縁のあった愛猫が家族になる喜びに浸りながら「この子にしてあげられること」をじっくり考えるのでも遅くはないと、私は思います。
飼い主の側が少しでも気持ちを緩めて、心を広くして迎え入れられるように。
一般的なノウハウはちょっと置いといて、これから猫と暮らす皆さんが楽しく、充実した毎日を送っていただけるためのアドバイスをお伝えできれば、というのが今回のテーマです。
暑い時期ですが、猫の譲渡会は全国各地で行われています。
うれしい出会いによって、晴れて愛猫家デビューとなる方もたくさんおられるでしょう。
あなたと愛猫の幸せな時間のために、肩の力を抜いて実践できることばかりですので、ぜひ参考にしていただければと思います。
「かわいい」だけじゃない魅力にたくさん気づこう
迎え入れたばかりの愛猫に対するあなたの気持ちは、おそらく「かわいい」の一言だと思います。
でも猫という生き物が持つ魅力は、愛らしさ以外にもたくさんあるのです。
独特の伸びのポーズ、柔軟な体勢での毛づくろい、小さな虫を逃がさず捕まえる反射神経、タワーをあっという間に登っていく瞬発力など・・・何気ないしぐさでも注意深く見ていると「ウチの子って、こんなことできるんだ!」という気づきがいろいろ得られると思います。
中には飼い主に向かって、ドヤ顔で自分の魅力をアピールする猫もいるでしょう。
ここであなたがしっかり見てあげる、そして褒めてあげることが、愛猫との距離を縮めるきっかけにもつながるのではないでしょうか。
好奇心を持って愛猫に接することは、密度の濃いねこライフに欠かせない習慣となります。
緊張がほぐれ、コミュニケーションが取れるようになってきたら、愛猫の長所をたくさん見つけてあげてください。
「親の心子知らず」を楽しめるゆとりを
ガツガツ食べてくれるのを期待して買ってきたプレミアムフードなのに、ひと口も食べてくれなかった。
これなら遊んでくれるはず、と自信を持って用意した猫じゃらしに、何の興味も示してくれない。
など、これからあなたは何度も、愛猫にそっぽを向かれ続ける毎日を過ごすことになるでしょう。
飼い主に愛猫の心を読む力があれば、何を求めているのか、どんな好みがあるのかを察した上で接することができます。
しかし世の中にそんな人間は(たぶん)いないと思うので、愛猫の眼鏡にかなう答えを出せるまで、我々飼い主は何度も試行錯誤を繰り返すしかありません。
ポイントは、この試行錯誤を楽しめるかどうか。
あなたが嫌われるのは、愛猫にもちゃんとした意思があることの証です。
愛猫に尽くして、また尽くして、でも喜んでくれない・・・というのが日常茶飯事になっているご家庭はたくさん存在します。ならばこれも、猫と暮らす醍醐味だとプラスに考えてしまいましょう。
食べることも遊ぶことも、居場所も接し方も、愛猫のお気に入りが見つかるまでひたすら試し、嫌われ続ける。ここに楽しみを求められる広い心も大切です。
「猫らしくない」と感じても、気にしない。
生物学上はネコですが、あなたが一緒に暮らす猫と、他所の家に居る猫やテレビで見る猫は同じネコではありません。
人間と一緒で、猫も個体によっていろんな性格や嗜好などの違いがあります。
日常の中で「猫っぽくないな」と感じる行動や反応を、あなたはこの先、いくつも目にするかもしれません。
でもこれは猫と暮らすほとんどの家庭にとっての「あるある」ですから、心配は無用です。
ニャーと鳴かない猫、身体が硬い猫、毛づくろいをしない猫、魚が嫌いな猫・・・我が家の猫も含めてたくさんいます。
そもそも「猫っぽい、とは?」の質問に答えられる人なんていないでしょ、と開き直ればいいのです。
マニュアルなどでよく見る「猫は○○な生き物です」とか「猫は○○○を好みません」といった記述から外れる反応は意外と多いもの。
言い方を変えて「猫らしくないけど、この子らしい」と思える部分を1つでも発見できることが、猫と暮らす好奇心を湧き立てられるメリットにもつながっていくように感じます。
ムツゴロウこと畑正憲さんも、猫に対しては「マニュアルに頼るのではなく、不思議な生き物と向き合う気持ちで接したほうが楽しい」と話されています。
ネコという種に対する固定観念など気にせず、愛猫が持っているいろんな個性に触れる楽しみを大事にしましょう。
人間を上回るいろんな能力のスゴさを知ろう
猫たちには、人間が持っていない能力がいろいろ備わっています。
優れた嗅覚や聴覚はもちろん、猫がセンサーの役割で持っているヒゲも人間にはありません。体長の何倍もの高さを楽々と跳び上がったり、狭いすき間を柔軟にすり抜けたりといった身体能力の高さも、人間をはるかに上回ります。
鋭く尖った爪や犬歯も、先祖たちが狩りに欠かせない武器として使っていたもの。
ぜひ間近で見てほしいのが、水の飲み方。舌ですくっているように見えて実は、ザラザラした舌の表側を水面に叩きつけながら飲んでいるのです。
あなたの愛猫もじっくり観察してみれば、全身の機能をフルに使って生活していることがよく分かります。
人間の想像を超える能力があるならば、もしかしたら愛猫はあなたが見えていないもの、聞こえていないものまで感知しているかもしれません。
我々にとっては超能力にも感じるスキルを猫が普通に持っているのかと思うと、「オマエってスゴいな」という思いもいっそう膨らむはずです。
スマホもいいけど、あなたの目でもしっかりと見つめよう。
たとえば観光地へ行った時、風景をじっくり眺める時間よりスマホのカメラを動かしている時間のほうが長い、というのはよくある話かもしれません。
でも画像や動画の記録に残すのと同じくらい、自分の眼で見た記憶を心に刻む作業も忘れないようにしたいものです。
猫のかわいい表情やしぐさを見つけた時、「残さねば」と反射的にスマホを探してしまう気持ちはよーく分かります。
でも間違いなく言えるのは、スマホで撮ったかわいさが、肉眼で見るかわいさを上回ることはないということ。
目の前でリアルタイムのかわいさに触れることができるのは、一緒に暮らす飼い主に与えられた特権です。
間近で見る立体感や空気感も愛猫の魅力に含まれますから、SNSで共有する前に、ご自分でしっかりと味わっておきましょう。
年数なんて関係ない。「猫経験値」を積み上げて自信をつけよう!
猫を迎え入れたばかりであるあなたの「猫歴」は、まだ始まったばかり。
でも猫を知る、猫を学ぶ、猫との暮らしに浸ることの深さは、決して数字で表せるものではありません。
私もよく「猫歴、何年ですか?」と聞かれることがありますが、正直、この数字に意味はほとんどないと思っています。
昼間は外にいて愛猫と触れ合う時間がほとんどない人、愛猫の世話を家族にまかせている人でも、年月が過ぎれば「猫歴10年、20年」と勝手に数字は増えていきますよね。
でも愛猫と遊んだ時間、様子を観察した時間、だっこした回数、動物病院へ連れて行った回数、ごはんにトイレなど・・・いろんなお世話をした経験を日々重ねていけば、たとえ短い年数でも、猫のことを熟知した飼い主、猫との暮らしに自信が持てる飼い主になることは可能なのです。
私はこれを「猫経験値」と呼んで、飼い主としてのスキルにつながる物差しにしています。
ただ一緒にいるだけでなく、あなたが愛猫の生涯にどこまで携われるか。愛猫の幸せな毎日をどれだけ考えてあげることができるか。
このテーマが持つ大切さを感じながら、愛猫に注いだ愛情の量にも比例する「猫経験値」をたくさん積み上げていってほしいと思います。