ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。
ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。
動物愛護法の改正により、令和4年6月から犬や猫へのマイクロチップ装着が義務化されました。
現状ではブリーダーやペットショップなどで販売される個体については『義務』、家庭で飼われている個体については『努力義務』つまり「なるべく装着してください」と働き掛けている状態です。
15桁の個体識別番号が記録されているマイクロチップは、ご家庭の犬や猫の存在を社会に認めるもの。
迷子や災害時に屋外で保護された際には「ウチの子」が証明できる唯一の手掛かりにもなります。
新規登録の個体については環境省のデータベースで管理されますが、もし将来、家庭の犬猫にもマイクロチップ装着が原則義務となった場合、人間との共生社会にはいろんな「良い影響」がもたらされるだろうと私は想像しています。
時代は変わり、ペットも家族であるという認識も強くなっている中、人間と一緒に暮らす動物たちの環境も良くしていかねばなりません。
その手がかりの1つとなりそうな「マイクロチップによる個体管理が生み出すメリット」が今回のテーマです。
本当の数字がまったく分からない「犬、猫の飼育頭数」
日本の家庭で飼育されている犬、猫の頭数については、一般社団法人ペットフード協会による「全国犬猫飼育実態調査」がメディアでよく報じられています。2021年の調査では犬が約710万頭、猫が約894万頭という結果が出ていました。
ただ、この調査はあくまで推計の数字となるため、実際の頭数に見合っているかどうかは何とも言えません。
自治体への届出が義務となっている「犬」について、厚生労働省が発表している2020年度末現在の登録頭数は約609万頭。上記調査とは約100万頭の差があります。
犬の登録を怠ると狂犬病予防法違反となり、罰金刑の対象にもなります。
しかし登録を行っていない飼い主も見受けられる実態があるようで、正確な数については推測が難しいかもしれません。
一方の「猫」ですが、一部の自治体を除いて飼育登録をする必要がない状態が続いています。
飼い方についても現状は室内、外飼いそれぞれの形があり、飼い猫の定義がはっきりしないのも事実。屋外で保護される猫の頭数がなかなか減らない理由にもなるのですが・・・この点については後で触れたいと思います。
猫については長年にわたって自由な飼い方、暮らし方で放置(言葉が悪いですが)されてきました。
そんな中でいきなり登録制に切り替えることへの困難も想像できるため、マイクロチップ装着をベースとした管理を進めていくのが早いかもしれません。
飼い主が持つべき、果たすべき責任を自覚するため
何事も無ければこの先、犬猫ともにマイクロチップの装着は普及していくことになるでしょう。個体管理の強化は何のために行われるのか。現時点で想像できる大きな効果は2つです。
1つは、遺棄や飼育放棄といった飼い主による犯罪の防止。
動物愛護法の改正によって、人間による虐待や遺棄には器物損壊罪を超える量刑を課すこともできるようになりました。
しかしまだまだ一緒に暮らす動物たちの命を重く見た法体制であるとはいえません。
飼えなくなったからといって、人目のつかない場所に犬や猫を置いて逃げる自分勝手な行動はいまだ後を絶たない状況です。
終生飼養が飼い主の役目であることは法律にも明記されていますので、外をさまよう犬や猫を保護した時、どの家で飼われている個体かを特定して責任が明確にされることは有効な抑止策となります。
犬や猫と暮らしていない人、動物が好きではない人も数多くいるこの社会。
「ペットも家族」という理解をあらゆる人に広めていくためには、お世話する保護者の責務に対しても厳しい世の中でなければいけません。
飼い主の安易な責任放棄を許さない仕組みづくりが、結果的に不幸な犬、猫を減らすことにつながるのであれば、個体管理の大きな意義となるはずです。
「不幸な目に遭う犬、猫」をこれ以上増やさないため
もう1つの効果は、保護される犬や猫の減少につながる期待です。
都市部で昔のような野良犬の姿はもう見なくなったものの、猫については外で暮らす個体がまだ山のようにいることが想像できます。
保護活動やTNR、地域猫の活動も各地で行われていますが、飼い主のいない未避妊の猫が外で子を産んでしまう限り、この問題はいつまでも解決の目を見ることがありません。
日本では年間に合計3万頭を超える犬や猫が所有者不明の状態で保護されています。
残念ながらその内の何割かが殺処分されている現実もありますが、すべての個体にマイクロチップが入っていれば、この数は限りなくゼロに近づくことになるのです。
保護団体やボランティアの皆さんの負担は年々増えているという話も聞きます。
急がれるのは、飼い主のいない個体を減らす、言い換えれば「蛇口を閉める」ための方策。
少なくとも愛犬や愛猫を棄てる人がいなくなれば、この問題は確実に解決に向かっていきます。
飼い主の愚かな行為を抑制するという観点からも、マイクロチップによるしっかりした個体管理は必要だと私は感じるのです。
「ペットの保険証」という夢のような話もしておきたい
日本にいるすべての犬や猫が、その存在を公的に認められることにもつながる個体管理。
動物愛護や共生においてもたらされる意義は他にもありそうですが、私自身、究極の理想に掲げたいのが「ペットの公的医療保険制度」です。
犬、猫の平均寿命は年々延びていますが、それだけシニア期と呼ばれる年数も長くなっていきます。問題となるのは医療費。現在動物病院は自由診療なので、想定以上に経済的負担が膨らんでしまうことも考えられます。
ペット保険の需要も高くなっていますが、掛け金や適用の範囲はそれぞれ異なります。
もしこの仕組みが国や自治体主導で行われ、愛犬や愛猫にも保険診療の概念が生まれれば、健康管理への関心も高まるのではないでしょうか。動物病院にちゃんと通おうと考える飼い主の割合も増えるかもしれません。
勝手な考えですが、せめてペット保険が適用されない定期健診に公的保険が利いたら・・・という思いが私にはあります。
段階的に適用範囲を広げていく形で良いので、いつか一緒に暮らす犬や猫に自治体から「保険証」が届く世の中になればと、今の時点では夢のようなことを思い浮かべています。
道のりは長いが、不可能ではない理想の実現へ
家庭動物としての犬や猫を唯一無二の個体であると証明するものとなるマイクロチップ。
人間に例えれば、戸籍やマイナンバーカードのような役割を果たしてくれるものとなります。
マイクロチップの装着義務化については意見が賛否あり、「やり過ぎだ」「体に異物を入れたくない」といった声も聞かれます。
ただ、これまで家庭で暮らす犬や猫の管理が不十分なままだった歴史が、無責任な遺棄や飼育放棄の問題をはじめとした、いろんな弊害にも目を向けてほしい気持ちもあるのです。
※日本獣医師会によれば、マイクロチップ装着の身体的リスクはきわめて軽微とされています。
マイクロチップ装着による個体管理が進んで日本国内の飼育頭数が明確になれば、先ほど書いた医療制度をはじめ、動物との共生がより良い方向に進んでいく期待も大きくなるでしょう。
もちろん年数は掛かると思いますが・・・もし実現すれば、それは日本が「幸せな犬や猫であふれる国」になる時かもしれません。