【愛玩動物飼養管理士監修】愛猫の「しつけ」は気持ちを伝え合う大切なコミュニケーション

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松尾 猛之(ねこライフ手帳製作委員会委員長/愛玩動物飼養管理士1級)

ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。

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ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。

かわいい仕草、愛くるしい鳴き声、至福のスキンシップ・・・猫と暮らす魅力はたくさんありますね。一緒にいるだけで心が安らぐ、仕事や家事の疲れも吹き飛ぶという方も多いでしょう。

 

しかし愛猫も時には出来心で、ついつい飼い主にとってよろしくないイタズラをやってしまうこともあります。

 

我が家の猫たちも・・・

 

・ティッシュを引っぱり出し、水おけにドボンと漬ける。

・棚にあるカリカリの袋を破いて、つまみ食いされてしまう。

・画面に鳥が映っている液晶テレビに体当たりして倒してしまう。

 

など、挙げればキリがありません。

 

ちょっとした間違いであれば、笑って許してあげたくなりますが、イタズラの程度によっては思わぬケガや損害を引き起こしてしまうケースも決して少なくないのです。

 

猫も人間と同じく、学習も反省もできる生き物であることを忘れてはいけません。

もちろん虐待はダメですが、いけないことを「ダメだよ」と伝えることは飼い主の役割であり、大切なコミュニケーションの1つにも含まれると私は考えます。

 

今回は愛猫のしつけについて、必要なものであるという見地から、その方法やコツなどを書いていきます。

 

しつけの頻度を少なくする作業からはじめる

飼い主である人間が、愛猫にしつけを行う目的は「愛猫が家庭の中で安心、安全に暮らせるようにするため」です。

 

決して「飼い主にとって扱いやすい愛猫に矯正させるため」でもなければ「飼い主の負担やストレスを軽減させるため」でもありません。

 

人間本位ではなく、あくまで愛猫の安心、安全を第一に考えたものであることは、しっかり理解しておくべき点です。

 

あともう1つ、愛猫との理想の関係性は「愛猫が安心、安全に暮らせている」つまり「しつける必要がない状態」ですから、まずは人間の側が歩み寄る意味で、しつけの要因になりそうなものを自ら減らしていく努力が必要となります。

 

 

では具体的に、何をやればいいのか。

もちろんその内容は、ご家庭の住環境によって異なりますが、最初にご紹介した我が家の例を基準に考えてみると、以下のようになります。

 

・ティッシュを引っぱり出し、水おけにドボンと漬ける。

→ティッシュの一番上を飛び出した状態にせず、内側にしまっておく

→愛猫の手が届く範囲にティッシュを置かない

 

・棚にあるカリカリの袋を破いて、つまみ食いされてしまう。

→カリカリの収納場所を変える

→カリカリを缶やタッパーに移し替えて保管する

 

・画面に鳥が映っている液晶テレビに体当たりして倒してしまう。

→後ろに倒れないよう、テレビの設置場所を壁際に変える

→液晶画面保護のシールドを取り付ける

 

第一にやるべきは、イタズラの元を断つ対策を取ること。

 

これをやらずに「ティッシュを引っぱり出すな、つまみ食いするな」では、飼い主は疲れるばかり、愛猫も居心地が悪くなってしまうばかりですから、しつけのメリットは生まれません。

 

他にもテーブル上の片づけやゴミ箱の管理、入られたくない場所のドア閉めなど、愛猫のイタズラされにくい環境を作る心がけも、しつけの頻度を少なくする効果につながるでしょう。

 

「悪い放任主義」がもたらすトラブルには犯罪となるものも

「飼い主が迷惑でなければいいんだから、放任主義でも構わないじゃないか」という意見があります。

 

もちろん頭ごなしに否定することはできませんが、放任主義であっても飼い主の監視は必要です。何もしない完全なほったらかしというのは、下手をすると飼育放棄と紙一重にもなってしまいかねません。

 

ここでは「悪い放任主義」と表現しますが、飼い主の監視や注意が行き届かない中での暮らしが、時に思わぬ事故やトラブルを生んでしまうこともあります。モノを壊される、部屋を汚されるだけでなく、開けっぱなしのドアや窓からの脱走となれば一大事です。

 

例として、噛みつきや爪によって来客者を傷つけてしまうトラブルは、犬だけでなく猫でも起こりうることです。

民法第718条には「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。」とあります。治療費や慰謝料の賠償に発展する可能性もあり、保護者としての管理義務が関係していることを忘れてはいけない事例となります。

 

「5つの自由」を阻害するしつけはNG

我々飼い主は、愛猫に対してどのような形でしつけを行えばいいのか。

ここから具体的に考えていきましょう。

 

まず押さえておきたいのは、1960年代のイギリスで提唱され、現在では国際的な動物福祉の基本とされている「5つの自由」です。

 

1) 飢えと渇きからの自由

2) 不快からの自由

3) 痛み・傷害・病気からの自由

4) 恐怖や抑圧からの自由

5) 正常な行動を表現する自由

 

飼い主である人間は、上記「5つの自由」を阻害するようなしつけの方法を取ってはならない、という認識が必要です。暴力はもちろん、ごはんや水を与えない、環境の悪い場所に閉じ込めるといった方法はしつけの範疇から外れることになり、動物愛護法に反する行為に該当します。

 

愛猫に痛みや多大なストレスを与える方法は、しつけではなく「虐待」です。ありがちなのは、飼い主のイライラが溜まって思わず手を出してしまった、という感情本位の振る舞い。客観的に見れば飼い主からの歩み寄りがない、ただの利己的な行動となります。これではしつけの効果どころか、愛猫との関係性そのものが悪くなってしまいます。

 

「イタズラすると、飼い主が哀しんでしまう」という学習

愛猫のしつけに「これをやれば、どんな猫も言うことを聞いてくれる」という絶対的なマニュアルはないと私は思っていますが、効果的なしつけにつながるコツはあります。

 

用いるのは「オペラント条件づけ」と呼ばれる学習法の一部。

愛猫に「これ(イタズラ)をやっちゃうと、悪いことが起きてしまう」と理解させることが目的となります。

 

ポイントは愛猫がイタズラをした後の、飼い主の反応。

ここで生かしたいのが、喜怒哀楽の「哀」の部分です。

 

しょんぼりした表情を見せたり、無言で愛猫を見つめたり、黙ってゆっくりその場を離れたり・・・やり方はそれぞれですが、とにかく愛猫に「飼い主を悲しませてしまった」と伝えることが大切です。

 

いつもと違う飼い主の様子に気づくことで、自分がやってしまったイタズラに罪悪感を覚えることができればしつけの効果アリ、となります。

 

もちろん1回では難しいでしょう。愛猫の反応を見ながら試行錯誤を重ねる必要がありますが、何度も学習させることによる“刷り込みの効果”は、「怒」の感情で接するよりはるかに大きいのは間違いないと思います。

 

愛猫に伝わるしつけのための「3つのポイント」

「ウチにいてくれるだけで幸せ」「好きに過ごしてくれればいい」という思いで愛猫と暮らしている方も多いでしょう。

でもその理想を実現させるためには、飼い主と愛猫、お互いの気持ちの歩み寄りは欠かせないと私は思います。

 

 

人間と同じく、猫のしつけも簡単にはいきません。でも押さえておくべきポイントを含んでいれば、愛猫の自由を阻害しない効果的な伝え方ができるのはないでしょうか。

 

 

大切にしたいのは、以下の3つです。

 

・愛猫の顔をしっかり見ながら、このイタズラはダメだよと伝える「愛情」

・聞いてくれるまで、何度も粘り強く繰り返す「継続」

・この方法でいいのか、違う方法も試してみようかと飼い主自身が考える「熟慮」

 

 

多少の時間はかかっても、愛猫があなたの思いを受け入れてくれる日は必ず来ます。

決して飼い主のエゴにならないよう、双方の安心安全な共生という目的を忘れることなく、愛猫の心に深く伝わる「しつけのコミュニケーション」を実践されてはいかがでしょうか。

 

 

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