ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。
ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。
動物愛護法の改正により、2022年6月から家庭動物となる犬や猫にマイクロチップの装着が義務化されます。
これにより犬猫等販売業者(ペットショップやブリーダー)においては、個体にマイクロチップを装着しなければ販売ができない決まりとなります。
また飼い主についても「努力義務規定」として、家庭で暮らす犬や猫にマイクロチップを装着するよう努めてください、という意の条文が動物愛護法に加えられています。
これだけを見ると、すでにマイクロチップを装着しているご家庭には関係のない問題だと思われるかもしれませんが・・・そうではありません。
まだ広く知られていない現状もありますが、この法改正によって、マイクロチップを装着した犬猫と暮らしているすべての家庭には1つ、できれば5月以内に「やっておくべきこと」があるのです。
犬猫たちの個体情報がしっかりと管理されるため、そして非常時に愛する家族の命を救える手立てとなる意味でも大切なことですので、ぜひ今回のコラムをご参考いただければと思います。
飼い主がやるべきことは「環境省データベースへの移行登録」
国では現在、家庭動物のマイクロチップ情報を一括管理するための取り組みが進められています。
その上で飼い主に対しては、自宅の愛犬や愛猫に装着されたマイクロチップについて、個体識別番号や飼い主の情報などを「環境省のデータベース」に登録してほしいと呼び掛けています。
その理由は犬、猫の管理体制を改善することにあります。
マイクロチップは国際的な統一規格(ISO規格の個体識別番号15ケタ)ですが、日本では装着されたチップのデータを管理している登録団体が複数(Fam、ジャパンケネルクラブ、マイクロチップ東海、日本マイクロチップ普及協会、日本獣医師会(AIPO))存在するのです。
今回の移行登録は、実質的にバラバラの管理となっているマイクロチップ情報を、国(環境省)に集約することが主な目的であると推測されます。
移行登録は、飼い主自身がパソコンやスマホで行います。
マイクロチップの情報が分かる書類(ハガキなど)を用意の上、以下のURLから登録することができます。
とても大事なことですが・・・移行登録は【5月中なら無料】です。
6月1日以降は手数料が掛かりますのでお気をつけください。
【2022年6月7日追記】
無料での移行登録が【2022年6月30日まで延長】されました。
※移行登録サイトはこちらです。
※詳しくは環境省のサイトをご覧ください。
登録が受付された後、もともとの登録団体に該当するデータがあるかの確認が行われます。
相違や不備がなければ、あなたの愛犬、愛猫のマイクロチップデータが登録団体から環境省に移行されることになるのです(登録団体にもデータは残ります)。
マイクロチップの登録、管理を統一化するメリット
今回の移行登録推奨は、国内の家庭にいる愛犬や愛猫を管理するデータベースの一元化、そして個体識別の利便性向上を期待する施策であると考えられます。
例を1つ挙げます。
あなたの愛犬、愛猫が、何らかの原因で自宅から脱走してしまい、その後、あなたの知らない第三者によって発見、保護されたとしましょう。
保護された愛犬、愛猫については、まず家庭で飼われている個体かどうかを調べる必要があります。その手がかりとなるのが、装着されたマイクロチップです。
埋め込まれたマイクロチップの情報は、読み取るための機械(リーダー)で識別します。
ここで個体識別番号を見ることができるので、保護された愛犬、愛猫がどこかの家庭にいた迷子である可能性が高くなります。
ここまでは比較的スムーズですが・・・
前述の通り、日本にはマイクロチップの登録団体が複数あります。
リーダーに表示されるのは15ケタの個体識別番号のみ。名前や生年月日、飼い主の情報、さらにはどこの登録団体で管理されたマイクロチップなのかも分かりません。よってここからは、各登録団体に問い合わせて確認するしかないのが現状なのです。
環境省による一括のデータベース管理には、登録団体の照合を行う手間を解消できる利点が生まれます。
飼い主の特定や引き渡しにかかる時間の短縮も期待できるため、情報の管理、検索、照合を同じ窓口で行える体制づくりには大きな意義があるといえるでしょう。
犬や猫を譲り受けた際の変更登録も義務化される
今回の法改正ではもう1つ、マイクロチップを装着された犬や猫を他者から譲り受けた人が、登録団体に登録されているデータを変更することが義務となりました。
目的は、家庭動物の所有者(飼い主)管理をより明確にすることにあります。
マイクロチップの個体識別番号には、一緒に暮らしている人物の情報もデータとして含まれますので、所有者が変われば登録団体に対して、きちんと変更の届出を行うことも必要となるのです。
変更が行われていない場合、脱走など万が一の時、発見後の身元確認が難しくなることも考えられます。
心当たりのある方はこの機会に、飼い主が自分であることの変更登録も忘れずに行っておきましょう。
現在の共生社会に良い変化が生まれる期待
現状、マイクロチップの移行登録は飼い主の任意となっています。
よってデータベースを完全に集約するには、まだまだ時間が掛かることが予想されます。
しかし今後の段階的な法改正によって、日本で人間と暮らすすべての犬、猫にマイクロチップが装着される時代が来る可能性も高くなりました。
いずれ、そのデータを環境省で一元管理できる社会となった時・・・
私は人間と動物の共生社会が、より良い方向に向かうのではないかと想像しています。
動物愛護法の制定前、街中には野良犬や野良猫がたくさんいて、人間と動物の共生について深く考えるような風潮などありませんでした。今からほんの50年ほど前の話です。
飼い犬、飼い猫についても、狂犬病予防など人間の健康に影響するものを除き、国を挙げての管理はほとんど行われてきませんでした。マイクロチップは犬や猫たちを唯一無二の個体として公に認めるものであり、このお墨付きを有益な個体管理に使ってほしいという願いもあります。
特に「犬、猫の飼育頭数(※)」については、今よりも高い精度のデータが取れることでしょう。
法律上「モノ」である家庭動物が「命ある生き物」として認められるための第一歩となれば、虐待や遺棄といった犯罪の抑制など、さまざまな効果が期待できると思います。
※現在公表されている主なデータとしては、農林水産省が各都道府県の数値を集計した犬の登録頭数、一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査などがあります。
命を守るマイクロチップは「あなたの家族である証明」
個体識別番号や飼い主の情報だけでなく、愛犬や愛猫の名前、種類、生年月日などもデータベースに入るマイクロチップ。
第三者に保護された時の手がかり、そして不測の事態における命綱ともなることから、あなたと暮らす家族である証明にもなります。
情報の一元管理によって、愛犬や愛猫のマイクロチップは、人間でいう戸籍やマイナンバーカードのような役割を果たすものとなっていくはずです。
しっかりとした個体管理は、飼い主のいない犬や猫の数を減らすための策にもなることが期待できるでしょう。
マイクロチップの移行登録をしなくても罰則の対象にはなりませんが、少し視野を広げて犬、猫とのより良い共生社会を考えると、環境省のデータベースに移しておくメリットは決して小さくありません。
災害など、この先も考えられる非常時においても助かるものとなりますので、私からも移行登録をぜひおすすめいたします。
※2022年6月1日以降に装着されたマイクロチップについては、直接環境省のデータベースに登録されるため、移行登録の必要はありません。