ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。
ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。
ウチの子、ウチの愛犬、ウチのお猫様、ウチの○○(名前)・・・
一緒に暮らす愛犬や愛猫にあるいろんな呼び方ですが、どんな呼称にも家族としての愛情が含まれているかと思います。
では人間と暮らす動物たち「全体」を指す時には、どんな呼び方が思いつくでしょう。
犬なら「ワンちゃん」、猫なら「ネコちゃん」というのが一般的です。
しかし犬猫兎鳥・・・と範囲を広げて呼ぶとなれば、少し悩んでしまうという方も多いかもしれません。
今回は家庭で飼われている動物たちの呼び方について、掘り下げてみたいと思います。
時代に合わせた言葉選びの難しさを感じる、皆さんにとっても意外と身近なテーマかもしれません。
「ペット」という呼び方に抵抗を覚えた知人の話
「ペット(pet)」の語源には2つの説があるといわれています。
1つは「小さな(petty)」という形容詞から取った説、もう1つは「撫でる」という意味を持つことから、愛おしさや慈しみの対象として使われるようになった説です。
皆さんが今お読みになられている「ペットジャーナル」は、株式会社ペットプロジャパンが運営しているサイト。私もペットのお仕事に携わる「ペットプロ」の1人だという自覚を持って書かせていただいています。
家庭にいる動物を指す「ペット」は古くから使われており、誰もが普通に見聞きする一般的な用語です。しかし最近ではこの呼称に対しての捉え方も多様化しているように感じます。
というのも、私と同じく猫を溺愛する知人との会話の中で、こんな言葉が出てきたのです。
ペットという言い方って、なんか冷たく感じるよね。
この前、ウチの子を「ペット」って呼んできた人がいたのよ。それがなんか納得できなくてね。
うん。言いたいことは分かる。理解はします。
私は知人の言葉をしっかりと飲み込んだ上で・・・
モヤモヤを感じていた知人に私はこう答えた
――― 猫や犬に興味のない人にとっては、誰かの家にいる猫や犬を「ペット」と呼ぶ以外、何も思いつかない人は意外と多いかもしれない。
我々はお互い「猫つながり」だけど、赤の他人にとっては「ただの人」でしょ? それと同じ理屈のような気がする。
でも動物と暮らしたことのない人が、悪意を持ってペットという表現を使うとは思えないよ。
軽蔑や卑下の気持ちではなく、他に適当な呼び方がなかったから、というだけの話じゃないかな。
「ペットと呼ぶな」って言いたくなる気持ちは分かるけど、無意識にペットという言葉を使っている人もまだまだ多い。
価値観は押しつけるより共有し合うべきものだから、今はまだ時代が追いついていないからと、猫と暮らしている側が一歩引いて考える時期だと、俺は思っているのよ ―――
動物と暮らしている人たちにとっては「家族」という意識の強さから、ペットという用語に対して無味乾燥なイメージを抱く気持ちも分からなくはありません。
ただし一方の目線だけで考えてはいけないわけで、動物と暮らしていない人たちにとっては、まだまだ古くから一般的に使われてきた「ペット」という言葉に対する抵抗は、それほど大きくないと私は想像しています。
前回のコラムでも触れましたが、この社会、動物と暮らした経験がある人、ない人の間には一定の温度差があります。その温度差は、ペットに対するいろんな考え方や価値観のズレにもつながってくるでしょう。
それらを抜きにして、いきなり「ペットという言い方は冷たい」「ウチの子をペット呼ばわりしないで」という声を広めようとするのは、正直いかがなものかと思ってしまうのです。
日本社会における人間と動物の共生はまだまだ黎明期。
価値観の押しつけに聞こえないほど理解が広まるまで、まずは双方の温度差を埋める時間が必要なのでは・・・これが私の意見です。
国や公的団体でも使われている「家庭動物」「愛玩動物」
では、ペットと同じ意味で使える呼び方にはどのようなものがあるでしょうか。
いくつかご紹介しましょう。
誰にも分かりやすく、無難に使えそうなのは「家庭動物」です。
人間の家庭で暮らしている動物、という意味がそのまま伝わる表現といえますね。
かつて環境省が動物の正しい飼い方を広める目的で作成された資料にも「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準のあらまし」という名称が付けられていました。
同じくペットを直訳した形として、日本では「愛玩動物」という言葉も広く使われています。
「愛玩」についても「慈しむ、かわいがる」という意味が含まれ、主に小さな動物に対して用いられる言葉です。
新しく国家資格となった「愛玩動物看護師」や民間資格の「愛玩動物飼養管理士」など、こちらも動物従事者の間ではよく使われる表現となります。
「玩具」の「玩」が字に使われているので誤解を受けやすい面もありますが、もちろんおもちゃのように扱うという意味ではなく、命ある動物たちにしっかり愛情を注ぐべきという思いが含まれています。
どちらも犬猫のみならずいろんな動物に使えるのが良い点ですが、会話の中で使うには少々堅苦しさを感じるかもしれません。
今の時代に合った表現といえる「伴侶動物」「しっぽ家族」
共生の意味合いを強くした「伴侶動物」も、最近よく使われるようになった呼び方です。
家庭で暮らす動物も家族の一員であることを「伴侶」という明確な言葉で表したもの。コンパニオンアニマルとも呼ばれています。
「伴侶」には、共に連れ立っていく者という意味があります。
犬猫たちの寿命が延びて、我々人間と一緒に居る時間も長くなっていることから、動物たちのシニア期や終生までの時間をどう過ごすかも自身のライフプランに含みながら考えていく必要が出ているのは間違いありません。
伴侶動物も正直なところ、日常会話では少々使いにくい表現かもしれません。
それでもかわいがる、世話をする対象から「共にこの世を生きる存在」へと変わった現在においてより密接な関係、そして深い絆を意識した表現であるように感じます。
使いやすさの意味でも私が良い印象を持っているのは「しっぽ家族(しっぽの家族)」という呼び方。犬や猫などにある「しっぽ」の特徴から取った表現であり、一部の保護団体、愛護団体などでも使われているようです。
私が知り合いから「しっぽ家族」という言葉をはじめて聞いた時、分かりやすい上にお子さんにも使いやすい呼び方だなという印象を持ちました。
漢字ばかりの呼称がある一方で、このような世代を問わず親しみの持てる表現が広まっていくことも、動物とのより良い共生を目指す上では必要なプロセスのように思います。
神経質なまでの言葉狩りは感心しない。世の中に対する広いココロも必要。
十数年前までは「犬猫」「飼う」「エサ」といった表現が普通でした。
それが現在では、人間との距離がより縮まったことで「家族」「一緒に暮らす」「ごはん」といった言葉に置き換えられるようになっています。
ただし「ペット」と呼ぶことに対する是非のように、人間と暮らす動物を指す表現の数々については、飼い主目線と飼い主でない人の目線が異なることへの理解を持ちつつ、視野を広げて考えていかねばならない問題です。
何度も書きますが、「ペットじゃない」「飼っていると言うな」などと言いたくなる気持ちはよく分かります。しかし日本で動物と暮らしている世帯はまだ全体の少数派。一人ひとりの言葉づかいを無理に改めさせようとしても、現実には難しい話となるでしょう。
人間社会で暮らす動物に対するいろんな意識や考え方については、「自分はこう思っている」というスタンスを大事にしながら、少しずつ周りが、社会が変わっていくことを待つのが一番良いような気がします。
目の前にあるものの否定より「こんなのもあるよ」と選択肢を増やす方向で理解を広めていくべきなのは、ウチの子の呼び方、家庭で暮らす動物たちの呼び方についても同じだと私は思いますが、皆さんはいかがでしょうか。