ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。
ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。
私の知人宅に住んでいる猫が先日、17歳の誕生日を迎えたと聞きました。
ここまで大きな病気もなく、フードは腎臓の療法食に変えたけど薬は飲ませていないとのこと(本当です)。日々の健康管理に加えて、飼い主が愛猫にしっかりと愛情を注いできた賜物だなと頭が下がる思いです。
現在、家庭猫の平均寿命は約16歳(完全室内飼育の場合)という調査結果があります。
しか40年前にさかのぼれば、当時の平均寿命はわずか3~4歳・・・こんな時代もあったのです。
医療の進歩や食事の改善などによって、人間と暮らす猫の寿命が延びたのはとても喜ばしいこと。最近では20歳を超えた猫の話も珍しくなくなってきた印象があります。
しかし我々人間は、この時代の変化を「猫だけの問題」だと思ってはいけません。
猫の平均寿命が延びれば、愛猫と長く過ごせる可能性も広がります。
しかし忘れてはならないのが、飼い主である「あなた」がいてこその共生であること。
この先10年、15年、20年・・・愛猫との暮らしを、これまで以上に長い目で考えるべき時代がやってきました。
「30歳まで生きられる」猫を腎臓病から救う新薬の開発
猫の腎臓病を治せる新薬の開発が始まった、というニュースをご存知の方も多いかと思います。
東大大学院・宮崎徹教授(当時)の研究によると、血液中に含まれるタンパク質の一種「AIM」には腎臓の老廃物をきれいにする作用があるといいます。
しかしネコ科のAIMに限っては、遺伝的な理由で作用してくれないことが分かったそうで、これが「猫に腎臓疾患が起こりやすい理由」に関係していることを宮崎氏は突き止めたのです。
ネコ科のAIMを活性化させることができれば、猫の腎臓病治療への道が開けてくる今回の新薬研究。東大基金に2億円を超える寄付が寄せられたことも話題となりました。
腎臓病は猫にとっての宿命ともいわれる病気ですが、もし近い将来、根治につながる可能性を秘めた新薬が実用化されたなら・・・家庭猫の平均寿命は現在の2倍、つまり30歳まで延びる可能性もあるだろうと、宮崎氏は著書「猫が30歳まで生きる日」で述べています。
愛猫が年を取れば、あなたも年を取る。この現実を忘れるべからず。
腎臓病の新薬が普及する時代が来れば、特に幼くして腎臓に疾患を抱える猫たちには大きな希望となります。
そして治療だけでなく予防医療にも活用されていけば、現在家庭で暮らす猫たちの寿命が大きく延びる可能性も期待できるでしょう。
しかしその一方で、飼い主の立場から忘れてはいけないのは、
「愛猫が生きる年数だけ、我々も変わらず世話をし続けねばならない」ことです。
事実として書きますが、猫の寿命が10年程度だった時代には、
「この猫は間違いなく、自分より先にこの世を去る」という確信がありました。
やがて現在のように10歳、15歳を超えて生きる個体も多くなり、猫にも「シニア期」という概念が生まれます。老いや介護の段階におけるケアを考える必要が出てきたのはここ十数年の話です。
そしてこの先、もし平均寿命が30年となって「超シニア期の猫」が生まれる世の中になったら・・・飼い主によるケアの話はさらに難しくなるのではないかと、私は想像します。
20歳を超えてからの食生活や医療はどうなるのでしょうか。
新たな疾患や認知症、問題行動の心配も否定できません。
経済的な面も含めて、飼い主の負担がさらに増すことも予想されるでしょう。
そうなると、大きな不安の1つに挙げられるのが「人間側の体力」です。
猫も人間も同じタイミングで加齢する現実は避けられません。25年、30年と生き続ける愛猫に足並みを合わせて、人間もその年数、しっかり動ける身体を維持しなければいけないのです。
すでに始まりつつある「単身世帯の飼育崩壊」
正確な全国規模の統計は確認できませんでしたが、単身世帯のペット飼育率が犬猫とも増加傾向にあるという推測は複数の媒体で報じられています。
ペット飼育の有無に関わらず、日本では1人暮らしの世帯そのものが増えているので、この推測は合っているでしょう。
癒しが欲しくて、という表現をよく聞きますが、愛猫や愛犬の存在が癒しを超えて「心の支え」になっている方も(私を含めて)きっと多いはずです。
単身の高齢者宅に住む愛猫が、ひとり残されてしまうニュースを見聞きするたびに、我が事として考えてしまいます。
今は一緒に住む家族がいても、1人暮らしの晩年を愛猫と一緒に迎える可能性はゼロではありません。これは誰の身にも起こりうると心に留めておくべきことです。
飼い主の孤独死によって、食事や水がないまま道連れになってしまった猫。
飼い主の体調がすぐれず、これ以上お世話できないからとひっそり捨てられてしまった猫。
ここにもまた、人間側の一方的な依存によって不幸な目に遭う猫の姿があります。
悲しい現実ですが、どちらも「終生飼養の義務に反する行為」なのは否定できません。
正直私は、猫の寿命がどんどん延びていくことを“手放しで喜ぶ”のは違うと思っています。
どれだけ大人になっても、人間社会で猫が自立することはないからです。
毎日お世話をする人間がいてこその「愛猫の長寿」であることを、今のこの時代から社会全体でしっかり認識しておく必要性を感じるのは、私だけでしょうか。
猫と暮らす単身世帯にも、「老老介護」の厳しい現状が表向きになりつつあるのです。
まずは愛猫と一緒に「健康寿命」を延ばしましょう
猫の平均寿命が30歳というのは、まだ先の話かもしれませんが、
かつてイベルメクチンというフィラリア予防薬の開発によって、犬の平均寿命が一気に2倍以上まで延びたという歴史もありますから、1つの新薬で猫の寿命がガラッと変わる可能性もゼロではない気がします。
仮にその時代が来たとして、子猫を迎え入れるとしたならば、
30年後、つまり「現在の年齢に30を足した時」まで想定しておくのが飼い主の責任となるわけです。
もし年齢的に難しいかもしれないという不安が出た場合、「愛猫の世話を他者に委ねる」という新たな義務が生まれます。
離れた場所に住む家族や知人への引き継ぎができれば一番良いですが、ペット信託や老猫ホームでの引き取りなど、時代に合った制度やサービスを活用する選択肢も今後増えていくでしょう。
とはいっても今、猫と暮らす我々人間ができるのは、
毎日元気に愛猫のお世話をするための「健康寿命」も延ばすことです。
繰り返しますが、愛猫は何歳まで生きても自立することはありません。
安全安心の毎日を、飼い主であるあなたに頼って生きています。
その責任に応えられるよう、我々人間も日々の健康管理を怠らず、愛猫の終生飼養を全うできるようにしたいものです。