【愛玩動物飼養管理士監修】重い課題をどう解決する?「動物虐待に対する罰則の現状」

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松尾 猛之(ねこライフ手帳製作委員会委員長/愛玩動物飼養管理士1級)

ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。

ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。

 

動物の虐待や遺棄は動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護法」)により禁止されており、現在では飼育放棄や多頭飼育崩壊も虐待とみなされます。犬や猫たちを迎え入れた家族はどんなことがあっても、必ず誰かの手によって終生まで面倒を見なければならない。これも法律に定められた責任です。

 

残念ながら国内における動物虐待の検挙数は年々増えており、2021年度は過去最高に。人間がストレスの捌け口に動物をいじめ、傷つけ、命を奪ってしまう事件も少なくありません。

 

逮捕、送検となって裁判所で有罪となれば、犯人は刑法に基づいて何らかの刑罰に処されます。ネットニュースなどで判決内容が報じられることもありますが、その量刑が適切かどうかについては人によっていろんな意見があると想像できます。

 

この国の動物との共生はまだ黎明期。動物たちの命を重く考える社会に変わりつつある中、法律も時代に見合った形にするべく活発な議論が続いていますが、その具体的な中身はどこまで世間に知られているでしょうか。今回は「動物に対する犯罪とその処罰」について現状と課題をまとめました。

思ったより軽い?動物虐待事件に対する最近の判例

2022年現在の動物愛護法では動物虐待を「動物を不必要に苦しめる行為」と定義し、正当な理由なく動物を殺傷する行為の他、ごはんや水を与えないなど「ネグレクト」と呼ばれる行為も含まれるとしています。

 

また遺棄については終生飼養を果たさずに動物を捨てて危険にさらすことだけでなく、外来生物を野外に放つことも農業被害や生態系破壊につながる違法行為と定めています。

 

最近では何百頭という数の個体を虐待したケースや、虐待の様子を動画で撮影して公開するといった卑劣極まりない事案もある残念な状況ですが、動物愛護法違反の事例について、これまで犯人にはどのような刑罰が下されてきたでしょうか。

 

 

私調べですが、過去の判例においては上記のような意図的な虐待で死に至らしめた場合、事件の被告に言い渡されているのは「1年前後の懲役に執行猶予が付いた有罪判決」。実刑判決はゼロです。そして飼育放棄によって死に至らしめた事件については、ほとんどが「10万円程度の罰金」でした。

厳罰化しにくい理由と推測できる「民法上の扱い」

動物を「人間」に置き換えた場合、殺人の最高刑は死刑。虐待や放置などの事件についても10年あるいは20年以上の懲役刑となるケースが多くなっています。

 

よって「なぜこんなに罪が軽い?」「人間も犬や猫も同じ命なのに」といったネット上の声もありますが、このコラムをお読みいただいている皆さん、動物と一緒に暮らしている皆さんからしても、その気持ちが理解できるという方は少なくないかもしれません。

 

それでも量刑において大きな差が生まれているのはなぜか。一番の理由は法律上の地位となるでしょう。「ペットは家族の一員」という認識が高まっても、現状は戸籍に入ることも財産の相続もできない存在。この現実が持つ意味は大きいことになります。

 

私自身も「これだけ酷いことをやっても、この量刑なのか」と、命の重みが同じなのに動物の地位が低い現状を嘆いてしまう時はあります。ただ裁判官が現行の法律に即して冷静な判断を下すのは当然の責務であることも理解しないといけません。

 

以前は「動物は法律でモノとされているから」という言葉が多く聞かれたこの問題。しかし現在では動物の殺傷を単なる器物損壊と解釈することは少なくなっており、「動物も命あるもの」という考えを汲んだ判決も徐々に増えているようです。

 

動物をモノ扱いする風潮そのものが見直されている。

せめてこの事実はポジティブに捉えたいですね。

直近の法改正で「実刑判決」の可能性が生まれたものの・・・

家族の一員という認識が定着している動物への犯罪については長年有識者を中心に罰則強化の必要性が叫ばれており、動物愛護法の見直しも段階的に進められている現状はぜひ知っていただきたい点となります。

 

2019年6月の法改正で愛護動物をみだりに殺傷したものに対しての刑罰が引き上げられ、最高で5年以下の懲役または500万円以下の罰金となりました。

 

この「5年以下の懲役」に引き上げられた意義の大きさに注目しましょう。刑法では5年以上の懲役は執行猶予の付かない「実刑」となります。よって形の上では動物愛護法違反で上限いっぱいの判決が確定すれば即収監、という可能性もあるわけです。

 

ただ刑事事件の量刑には相場と呼ばれるものがあるため、初犯で上限(懲役5年)の判決は今のところ現実的ではありません。これが「5年以下の懲役では足りない」という声が出ている理由にもなっていると推測できます。

罰則強化と並行して高めたい動物たちの「社会的地位」

政治家や著名人の方々など関係各所の皆さんが、一般市民の意見を吸い上げて罰則強化に向けた活動を続けておられるその姿には私も頭が下がる思いです。

 

ただ一方で、罰則を強化すべき根拠を築くことも大事になってくるでしょう。

言い換えれば「動物の社会的地位の向上」です。

 

マイクロチップ装着の義務範囲が広がったことで、今後個体管理による飼育頭数の把握は進んでいくと思われます。個体管理は「家族の証」にもつながることから、さらに時代が進めば「どこの家に、どんなペットが住んでいる」というところまで公に認められる体制ができるかもしれません。

 

また飼い主がいない犬猫を減らす取り組みだけでなく、安易に愛護動物を捨てさせないための方策も必要となるでしょう。

私が製作、販売している「ねこライフ手帳」もそうですが、愛犬や愛猫に深い愛情を注げる飼い主を増やすための手段や取り組みが1つでも多く提案されていくことで、飼育放棄や遺棄といった勝手な振る舞いへの歯止めにつなげることの重要性が共有されてほしいと願っています。

 

動物の社会的地位が上がれば、当然ながら命の重みについてもより広く認識されることになります。動物を虐めたり殺したりする行為がいかに愚かで非人道的か、その大きな裏付けにもなる要素だと考えたいものです。

なるべく多くの理解と共感を得ながらの法整備を

繰り返しになりますが、人間も犬も猫もその他の生き物も、命の重みに変わりはないはず。この理解が多くの人に広まることで虐待や遺棄は確実に減っていくでしょう。

 

しかし犯罪の抑止という課題を前に考えると、日常の過度な不満やストレスが人間の冷静さを失わせ、モラルのない行動に走らせてしまう現実もあります。蛮行に対して簡単にブレーキを掛けられないとなれば、性悪説に基づく罰則強化も人間社会にはある程度必要なのかもしれません。

 

法改正という枠組み、そして意識高揚という中身。どちらが欠けてもバランスに違和感が生まれて世間の理解が得られない。それが動物愛護法をめぐる課題かと私は思っています。

 

動物愛護の先進国では日本を超える法整備も進んでいるようですが、せっかくの取り組みが「一部の人間たちの独善的な行動」と受け止められてしまっては誰のためにもなりません。何より、動物と暮らしていない人も含めて広く理解を求めることの必要性も忘れたくないものです。

 

前のコラムでも書いた通り、ペットと暮らしている世帯の割合は国全体で見れば少数派であることも鑑みるべき事実。日本は日本でなるべく多くの人の共感を得ていきながら、時間を掛けて動物愛護法の整備を進めていくことが何より大事だと私は考えますが、このコラムをお読みいただいている皆さんはいかがでしょうか。

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