【愛玩動物飼養管理士監修】知っているようで知らなかった「愛猫と飲み水」の関係

松尾 猛之(ねこライフ手帳製作委員会委員長/愛玩動物飼養管理士1級)

ペット用品メーカー勤務を経て、母子手帳からエンディングノートまで、愛猫との生活記録をオールインワンで記入できる「ねこライフ手帳ベーシック」を2019年に製作しました。手帳の販売を通して、飼い主である人間が愛猫の個性と向き合い、理想の暮らし方を自分で考えることの大切さをお伝えしています。

 

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ねこライフ手帳製作委員会の松尾です。今回もよろしくお願いいたします。

 

3月22日は、国連が定める「世界水の日」です。

生きていく上で欠かせない水を安全に使えることの大切さについて、世界中で考えるための日とされています。

 

日本はきれいで安全な水道水が飲める、数少ない国の1つ。

インフラがしっかり整備されているおかげで、人間だけでなく一緒に暮らす動物たちにも、水道水を飲用として与えることができています。

 

特に腎臓の丈夫さが寿命にも関係しやすい猫は、毎日の飲み水に対する意識が欠かせません。

「ミネラルウォーターを猫に飲ませてはいけない」という話も聞きますが、本当にそうなのでしょうか?

 

 

◆水にはミネラルの量に応じた「硬度」がある

今回のテーマは「愛猫の飲み水について」ですが、

1つ、先に書いておきたいことがあります。

 

水にはミネラル(カルシウム、マグネシウム)の含有量に応じた硬度の基準が、WHO(世界保健機構)によって定められています。

 

硬度は水1リットルあたりのミネラル含有量によって、以下のように区分されます。

 

60mg未満・・・「軟水」

60~120mg未満・・・「中硬水」

120~180mg未満・・・「硬水」

180mg以上・・・「超硬水」

 

軟水、硬水という呼び名は上記の基準によって決まるわけですが、これを踏まえてお読みいただければ幸いです。

 

 

◆ミネラルウォーターを飲ませてはいけない“とされる”理由

きっかけは、猫と暮らす友人とのこんなやり取りでした。

 

 

「猫にミネラルウォーターは飲ませるなって、かかりつけの医師に言われた」

 

「飲ませるな、って言われたの?」

 

「うん、水道水にしなさいって」

 

「理由は?」

 

「ミネラルで尿路結石になるからって」

 

「ミネラルウォーターにもいろいろあるけど……」

 

「なんか分かんないけど、とにかく飲ませるなって言われた」

 

 

――「なんか分かんないけど」で、納得して帰ってきちゃイカンよ。

 

最後に私が友人に言って会話は終わりましたが、

疑問に感じたのは「ミネラルウォーターを飲んだら石ができる」というフレーズだけが、ひとり歩きしていることでした。

 

「ミネラルウォーターという名前だから、ミネラルがたくさん入っていて結石の原因になる」という連想だと思いますが、ボトルの中身がどの商品も同じというわけでは、決してありません。

 

 

◆気をつけたい「ミネラルウォーターの硬度」

ミネラルウォーターは取水地によってミネラルの含有量が異なり、硬度にも違いがあります。

ミネラルの量はラベルに記載されていますが、国産ミネラルウォーターはほとんどが軟水です。

 

もちろん愛猫の体質にもよりますが、ミネラルウォーターを飲ませたからといって、ただちに結石を心配するようなことにはならないと考えて良いでしょう。

 

一方、ヨーロッパのミネラルウォーターにはミネラルをたっぷり含んだ硬水が多く、日本でもよく飲まれているフランスの「エビアン」が304mg、「ヴィッテル」も315mgという高い硬度となっています。

 

フランスといえばシャルトリューという猫種が有名ですが、もちろんフランスにもイエネコがいて、地元の水を飲んで暮らしています。

 

そうなると、硬度の高い水を毎日飲んで大丈夫なのか? という心配もありますが……ヨーロッパで深刻に捉えるべき腎臓疾患については、犬猫を問わず報告されていないとのこと。シャルトリューの平均寿命も、一般的な猫の平均寿命と変わらないようです。

 

ミネラルウォーターをひとくくりに「石ができやすい水」と捉える必要はないかもしれません。

しかし硬水が結石のリスクを上げることは間違いありませんので、愛猫に与えるのはなるべく軟水で、という意識は必要かと思います。

 

 

◆上京して知った「水道水にも硬度がある」こと

では水道水であれば、硬度を気にすることなく与えて良いのか。

一応、答えはイエスなのですが、日本の水道水にはあまり知られていない事実もあります。

 

今から15年前、筆者である私は当時の職場の事情で大阪から上京しました。

 

大阪と東京では明確な文化の違いがありますが、私が特に気になっていたのは「東京の水はマズい」という、関西人が口を揃えてこぼす不満です。

 

転居後に飲んだ東京の水は、たしかにちょっと違う口当たりでしたが、マズいとまでは思いませんでした。

 

事実、東京の浄水技術はとてもレベルが高く、水道局が自ら「東京水」というペットボトル水を販売するほど、安全性のこだわりも強くPRされています。

 

それでもなぜ、私が東京の水に違和感を覚えたのか。

その理由は後になって「硬度の違い」だと分かりました。

 

日本の水道水は飲みやすい軟水、というイメージがあります。

しかし国内の企業や団体、大学などが調査した日本各地の水質データを複数閲覧してみたところ、いずれの結果にも共通する意外な傾向がありました。

 

関西の水道水がほぼ全域で「軟水」なのに対して、関東の水道水にはミネラルの含有量が総じて多かったのです。

 

千葉や埼玉には100mgを超える「中硬水」「硬水」の地域も多くありました。

これは市販の軟水ミネラルウォーターより、はるかに硬い水質ということになります。

 

ミネラルを多く含んだ水は口当たりが重くなり、飲みにくさを感じる場合もあります。

結局はこれが違和感の原因でしたが、私がいま住んでいる埼玉は、水道水の硬度が高いとされる地域。愛猫に普通に飲ませていいものか、少し不安にもなりました。

 

知り合いの獣医師にこの件を伝えると、「日本の水道水なら問題ないよ」という返答でしたが、東と西で水の硬度が違うことまではご存知なかったようです。

 

 

◆水道が止まった時、愛猫に飲ませるミネラルウォーターの備えを

ウチは水道水で問題ないとお考えの方にも、ミネラルウォーターの選択肢を排除しないでほしい理由があります。

 

それはライフラインの遮断によって、水道水が使えなくなった時の「備蓄」です。

 

災害発生後、愛猫にミネラルウォーターを飲ませるしかないという状況は十分に想定できます。

非常用の水は人間だけでなく、愛猫の飲み水にもなりますから、軟水のミネラルウォーターをなるべく多めに備えておくのは、ペット防災の観点からも重要といえます。

 

水道水でいいと思っていたら、水道が止まってしまった。そこで手詰まりになってしまわないよう、猫と一緒に暮らすご家庭には水の備蓄が欠かせません。

 

 

◆「愛猫の飲み水」を、深く考えてみよう。

人間も猫も毎日飲んでいる水ですが、水にもいろんな性質があり、体内にもたらす作用もそれぞれ変わります。「水道水は○○」「ミネラルウォーターは○○」といった、ひと言で片づけられるものではないことも、お分かりいただけたでしょうか。

 

愛猫の飲み水についても「これしかない」ではなく「どれにしようか」と考えられたほうが、我々飼い主の心にもゆとりが生まれます。災害をはじめとしたいろんな状況に対応しやすいよう、愛猫の健康管理に選択肢を増やす効果を大事にしていただきたいです。

 

水道水とミネラルウォーター、どちらが良いかと考えるより、

「どちらも愛猫に与えていい水」と、少し視野を広げてみるのもいいかもしれません。